既存住宅状況調査(インスペクション)とは|実施の方法やメリットを解説

不動産売却の基礎知識
執筆者
切塗よしを

きりぬりよしを:ライター、小説家/建築主事や都市計画法関連業務の行政経験を有す/小説の分野では大阪文学学校賞、滋賀県教育長賞を受賞/ことの葉行政書士事務所代表
【保有資格】特定行政書士、既存住宅状況調査技術者(インスペクター)、建築基準適合判定資格者、終活カウンセラー、著作権相談員

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中古住宅の取引では、建物の状態がよく分からないから不安だという声をよく耳にします。そうした不安を解消してくれるのが、既存住宅状況調査(インスペクション)です。この記事では、インスペクションはどのような方法で実施されるのか、そしてどんなメリットがあるのかについて解説をします。

インスペクションとは何か

既存住宅状況調査=インスペクションとは、住宅の劣化や欠陥の有無に関して、資格を有する専門家が行う調査のことです。調査は、次のポイントに着目して行われます。

  • 構造耐力上主要な部分の調査
  • 雨水の侵入を防止する部分の調査
  • 耐震性に関する書類の確認

調査の結果は報告書としてまとめられたうえで、依頼者に提出されます。

インスペクションを行うのは、既存住宅状況調査技術者です。これは、建築士のうち、国の登録を受けた講習実施機関が実施する講習を修了した者が取得できる資格です。

宅地建物取引業法の改正とインスペクションの関係

中古住宅がなかなか流通しない背景のひとつに、買主が住宅の品質に対して不安を抱いているということがあります。このため国土交通省は、インスペクションを活発化させることにより、売主や買主が安心して取引ができる市場環境を整備することを目的にして、宅地建物取引業法を平成28年に改正しました。

この改正により、宅地建物取引業者は、不動産の媒介契約を締結する際に、依頼者に対してインスペクションのあっせんに関する事項を記載した書面を交付する義務が生じることになりました

また不動産売買契約時においても、重要事項説明の中で、インスペクション実施の有無を説明するとともに、インスペクションを実施している場合には結果の概要を書面で交付する必要があります。

「既存住宅状況調査技術者」は「ホームインスペクター」とは異なる

改正宅建業法では「建物状況調査」という用語が法文に用いられています。「建物状況調査」とは、既存住宅状況調査技術者が実施したインスペクションを指します。既存住宅状況調査技術者は国が定めた資格であり、民間の資格であるホームインスペクターや住宅診断士等とはまったく異なるものです。

インスペクションを行った住宅は、重要事項説明書に「建物状況調査の結果の概要」を添付しますが、これは既存住宅状況調査技術者が作成したもののみが法的に有効な書類として扱われます

インスペクションの実施方法・調査項目

インスペクションでは、建物の持続に関わる重大な劣化事象を確認したら調査票に記録をしていきます。実際にどのような方法で調査が行われて、調査によってどんな劣化事象が明らかになるのかみていきましょう。

基礎の調査

基礎は、建物外部及び床下点検口から目視可能な範囲が調査対象になります。具体的にどのような状態が劣化事象となるのか個別にみていきましょう。

ひび割れ

基礎の調査においては、ひび割れの有無を確認します。幅0.5mm以上のひび割れがあれば、構造に影響がある劣化事象として記録されます。また幅に関係なく深さが20㎜以上あるものについても、劣化事象になります。

コンクリートの劣化

基礎のコンクリートが著しく劣化していると、一部が欠けたり浮き上がったりという症状が現れます。これらの有無を確認するためハンマーを用いて打診をします。

鉄筋の不良

基礎からさび汁が出ている場合は、鉄筋が錆による劣化が想定されます。錆により鉄筋が膨張すると、コンクリートが欠けることがあります。

またコンクリートの割れによって鉄筋が露出している場合も、構造の劣化を招く要因になります。

鉄筋の探査

基礎の鉄筋の本数及び間隔が構造耐力上問題のない範囲で収まっているかについて鉄筋探査機を用いて調査します。300㎜以内の間隔で一様に配筋されていれば、構造耐力上支障がないと判断します。

沈下の有無

基礎にひび割れが生じている場合、基礎の沈下が原因になっていることがあります。沈下の有無については、外部を目視するとともに建具の開閉や計測によって確認します。

柱や梁の調査

柱や梁は住宅を支える主要な部位です。これらに欠陥があると、建物の存続に重大な影響を及ぼします。どのような個所に着目して調査が行われるのかみていきましょう。

柱や梁の著しいひび割れ、劣化、欠損

柱や梁に著しいひび割れがないかについて調査をします。また接合金物の腐食や断面の欠損の有無についても調査します。

柱の傾き

計測器を用いて柱の傾きを調査します。6/1000以上の傾きがあれば劣化事象として記録されます。たとえば2.3mの柱だと上下で14mm以上のずれがあるものがこれに該当します。

梁の著しいたわみ

梁は天井裏にあるので、天井点検口からライトを照射して、目視によって著しいたわみの有無を確認します。

外壁の調査

外壁自体は建物を支える役目を担っていないので、多少の汚れやひび割れがあっただけでは劣化事象にはなりません。しかし同じひび割れでも柱や土台に悪影響を及ぼしかねないサインが発見されれば、劣化事象として記録されることになります。

外壁の仕上げ方法は、サイディングボード張り仕上げの「乾式工法」と左官でモルタルを塗る「湿式後方」に分類できます。それぞれの工法において、どのような症状があれば劣化事象となるのかみていきましょう。

サイディングボード張りの外壁

複数のサイディングボードで連続するひび割れがあった場合は、柱や梁等の構造部材の劣化が生じている可能性が高いため、劣化事象として記録されます。

モルタル塗り仕上げの外壁

モルタル塗りはハンマーによる打診で浮きの有無を調査します。本来の仕上げ面から膨らんでいるものは、目地の劣化を招き、雨水の侵入によって構造部材を劣化を促進させる可能性が高いため劣化事象として記録されます。

またひび割れが下地材まで到達している場合も、同様に構造部材の劣化を促進させる可能性が高いために劣化事象として記録されます。

シロアリ被害の調査

木造住宅においては、シロアリ被害の有無について調査をします。調査は柱や梁を始め床下点検口から目視できる土台が対象になります。

目視により蟻道、蟻土、羽アリ、食痕が直接確認できた場合は、構造耐力が低下していると考えられるため、劣化事象として記録されます。

屋根の調査

屋根は雨水の侵入を防止する機能を確認する目的で調査が行われます。インスペクションでは、外部足場を組んでの調査や屋根に上がっての調査はしません。このため、道路などの屋根の見える場所に移動して、双眼鏡によって目視調査をします。

これにより屋根葺き材の著しい破損、ずれ、ひび割れ、劣化、欠損、浮き、はがれがあれば劣化事象として記録します。

なお屋根葺き材を緊結する番線の劣化や通常考えられる経年劣化については、劣化事象としては扱いません。

耐震性に関する書類の審査

インスペクションでは新耐震基準に適合している建物であることを書類によって確認します。

調査対象になるのは、昭和56年6月1日以降に建築済証の交付を受けた既存建物です。該当しているものは、次の書類によって審査をします。

  • 確認済証
  • 検査済証
  • 確認台帳記載事項証明
  • 新築時の建設住宅性能評価書
  • 住宅瑕疵担保責任保険の付保証明書

これらの書類のうち、いずれか1種類を用意します。

オプション調査

インスペクションでは、告示で定められた基準の調査に加えて、依頼者の要望があれば次のようなオプション調査も実施します。

  • 設備配管(給水・給湯管)に赤水が確認されないか目視による調査
  • 設備配管(給水・給湯管・排水)に漏水跡がないかについて配管の目視調査
  • 設備配管(排水)に滞留がないか目視確認
  • 換気ダクトの脱落がないか目視確認
  • キッチンコンロ、換気扇、パッケージエアコンの作動不良確認
  • 給排水設備、電気設備、ガス設備の作動不良確認
  • 門、塀、車庫、擁壁の目視確認
  • 樋の詰まりを確認して、清掃で解決するかを判断
  • 住宅の汚損について、清掃で解決するかを判断

住宅を売却する際は、これらのオプション調査も実施することで売れやすくなる可能性があります。

インスペクションのメリット

インスペクションを実施することで、売主にとっても買主にとっても安心して取引をすることが可能になりますが、メリットはこれだけではありません。インスペクションには、他にどのようなメリットがあるのかを解説します。

瑕疵担保責任を問われる可能性を低減できる

個人同士の不動産の売買では「瑕疵担保免責特約」をつけるのが一般的です。免責特約があれば、万が一隠れた瑕疵が見つかったとしても、売主は責任を追及されることはありません。

ところが売主が事実を知りながら告げていなかったら、特約は無効となり、状況によっては損害賠償を求められることもあります。つまり瑕疵の事実を知っていたか、知らなかったかということがひとつの争点となるのですが、本当に知らなかったとしても、それを証明することはとても困難です。

ましてや基礎のひび割れや外壁の浮きなど、少し注視すれば容易に気づく箇所の瑕疵が発見されると、これを知らなかったといって弁明をしても、買主に納得してもらうことはほぼ不可能だといえます。

こうしたリスクを極力低減させるためには、瑕疵担保責任を問われそうな箇所を徹底的に調査して、住宅の現況を買主に明らかにする他にありません。

インスペクションを実施すると、報告書の中に、次のような重要事項説明用の資料が含まれています。

インスペクションを実施すると重要事項説明書用の書類が添付できる

インスペクションを実施すると重要事項説明書用の書類が添付できる

この書類を重要事項説明書に添付することで、建物の部位ごとの状況が明らかになるので、隠れた瑕疵が見つかる可能性が大幅に低減できるばかりか、万が一何らかの不備が発見されたとしても売却後に発現した可能性を裏付ける資料として活用することもできます。

既存住宅売買瑕疵担保責任保険に加入できる

既存住宅売買瑕疵担保責任保険は、隠れた瑕疵によって生じた買主の損害を保証する保険です。

売主が登録検査事業者に検査と保証を依頼することで保険に加入できます。登録検査事業者は、自ら探し出すことも可能ですが、物件を仲介する不動産会社に紹介してもらうのが一般的です。

ただし保険に加入するためには次の条件を満たす必要があります。

  • 検査事業者があらかじめ保険法人に事業者登録されていること
  • 検査事業者の検査及び保険法人の検査を行うこと
  • 検査事業者の検査及び保険事業者の検査の結果、劣化事象がないこと
  • 耐震性に関する書類が存在すること
  • 保険法人による審査を受けること

この条件の中に「劣化事象がないこと」との項目がありますが、補修によって劣化事象が解消した場合でも加入は認められます。

相場どおりの売却価格が設定できる

中古住宅の購入をためらう要因のひとつが、品質が分からないというものです。インスペクションを実施して劣化事由がなかった場合、良品質の住宅であることを公言できますから、市場相場価格での購入希望者が現れる確率が高くなります

根拠のない値下げ交渉に対応できる

インスペクションを依頼すると、最終的に調査事業者から17ページ以上の調査報告書が提出されます。この調査報告書によって、自宅の品質を客観的に把握することができます。

また調査をした既存住宅現況調査技術者の説明を聞くことで、同じひび割れでも、構造的にダメージを与えるものとまったく影響のないものがあることが理解できます。

これにより、たとえば購入希望者が外壁のささいなひび割れを理由に値下げ交渉をしてきても、耐震構造上はまったく問題のないことをきちんと説明することができます。

適正な補修工事ができる

売却前にリフォームを考えている場合、見積もりを工務店に依頼すると、それほど緊急性を要さない部位でも補修をした方がいいと勧めてくることがあります。インスペクションは、施工業者とはまったく利害関係のない中立的な立場で調査が行われるので、本当に補修工事の必要な部位と不要不急の部位が明らかになります。

これによりリフォームの範囲を最小限に抑えて、売却をすることが可能になります

まとめ

インスペクションは、建築士の資格がある技術者が調査を行うため、住宅の品質を適格に判断することができます。

住宅の売買は高額な取引になるため、買主も物件の選択には慎重になっています。インスペクションを実施した住宅というだけで、買主にとても大きな安心感を与えることができます。

売買をスムーズに進めるためにも、自宅の売却に際しては、ぜひインスペクションを実施しましょう。

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