「第一種中高層住居専用地域」と「第二種中高層専用地域」は、「中高層」が含まれる名称のとおり、中高層マンションを中心とした良好な住居の環境を保護する地域です。もしこの用途地域に指定されているエリアのマンションに住むとしたら、どのような環境の中で暮らすことになるのでしょうか。この記事では第一種・第二種中高住居専用地域の特色を明らかにしたうえで、他の用途地域との違いを解説していきます。
第一種・第二種中高層住居専用地域はどんな地域か
第一種・第二種中高層住居専用地域に類似した名称の用途地域に「第一種低層住居専用地域」があります。こちらと名称上の違いは「低層」であるか「中高層」であるかという点です。
第一種低層住居専用地域は、「低層」の名のとおり、一戸建ての住宅を中心とした住環境の保護を目指していましたが、第一種・第二種中高層住居専用地域は「中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」とされています。
中高層の住宅とはマンションなどの共同住宅です。つまり第一種・第二種中高層住居専用地域では、ある程度の高さを有したマンションを容認しつつ、そこに居住する住民が暮らしやすい地域になることを目指しているのです。
▼低層住居専用地域に関しては下記記事を参照

第一種中高層住居専用地域には何が建てられるのか
第一種中高層住居専用地域と第二種中高層住居専用地域は、名称こそ似ていますが、建築ができる建物の用途は大きく異なっています。ここでは、まず第一種中高層住居専用地域について、どんな用途の建築物が建築できるのかについて解説します。
第一種中高層住居専用地域で建築できるもの
第一種中高層住居専用地域では、次のような用途の建築物を建てることができます。
- 第一種低層住居専用地域で建築できる用途の建築物(住宅、共同住宅、学校など)
- 大学、高等専門学校、専修学校
- 病院
- 老人福祉センター、児童厚生施設
- 店舗、飲食店(ただし規模や階数に制限があります。)
- 自動車車庫で床面積の合計が300平方メートル以内のもの。(ただし3階以上を駐車場とすることはできません。)
- 銀行の支店、損害保険代理店、不動産会社の店舗、税務署、警察署、保健所、消防署
第一種中高層住居専用地域では、第一種低層住居専用地域では認められない大学や銀行、さらには規模の大きい官公庁の建築をすることができます。
第一種中高層住居専用地域で営業できる店舗の規模は?
第一種中高層住居専用地域で営業できる店舗は、建築基準法で次のように定められています。
店舗、飲食店その他これらに類する用途に供するもののうち政令で定めるものでその用途に供する部分の床面積の合計が500平方メートル以内のもの(3階以上の部分をその用途に供するものを除く。)
この条文は少し複雑に書いてあるので、分かりやすく解説をしていきましょう。
「店舗、飲食店その他これらに類する用途に供するもののうち政令で定めるもの」とは、物品販売店か飲食店が該当します。これでほとんどの店舗が該当することになりますが、規模については、500平方メートル以内に制限されています。
また「3階以上の部分をその用途に供するものを除く」とありますから、1階と2階あるいは地階でしか営業ができません。
第一種中高層住居専用地域では、高層建築が建てられるエリアもあるので、たとえば10階建てのマンションであれば1~2階を店舗とする建築も可能です。
第一種中高層住居専用地域では事務所ができない
第一種中高層住居専用地域では規模の大きい官公庁施設や銀行の建築が認められていますが、事務所は建築することができません。このため大きな会社が建築されることはありません。
事務所として認められるのは、第一種低層住居専用地域でも建築ができる50平方メートル以下の住居兼用事務所のみです。
第二種中高層住居専用地域には、何が建てられるのか
次に第二種中高層住居専用地域に建てられる建築物をみていくことにしましょう。この地域は、第一種中高層住居専用地域よりも制限が緩和されています。
制限で大きく異なるのは、第一種中高層住居専用地域では「建築することができる建築物」を示していたのに対して、第二種中高層住居専用地域では「建築してはならない建築物」を示しています。言い方を変えれば、記載されていない建築物であれば建築が可能ということですから、選択肢は大きく広がります。
第二種中高層住居専用地域で建築できないもの
第二種中高層住居専用地域で建築できないものは次のとおりです。ここに記載した用途は、建築ができないものなので注意してください。
- パチンコ屋などの遊戯施設、カラオケボックス、劇場、映画館、300平方メートルを超える駐車場、倉庫業の倉庫など
- 工場
- ボーリング場、スケート場、プール
- ホテル又は旅館
- 自動車教習所
- 15平方メートル以上の畜舎
- 3階以上の部分を第一種中高層住居専用地域で建築できない用途としたもの
- 第一種中高層住居専用地域で建築できない用途で1,500平方メートルを超えるもの
第二種中高層住居専用地域では遊戯施設や工場が禁じられていますから、エリア内が極端に賑わったり騒音で悩まされたりすることはありません。
第二種中高層住居専用地域で営業できる店舗の規模は?
第二種中高層住居専用地域で営業できる店舗の規模について説明します。まず「3階以上の部分を第一種中高層住居専用地域で建築できない用途としたものは建築できない」とされていますから、店舗や飲食店は、3階以上の階に設けることはできません。
また「第一種中高層住居専用地域で建築できない用途で1,500平方メートルを超えるものは建築できない」とされているため、第二種中高層住居専用地域で営業できる店舗は、2階以下の部分でかつ床面積が1,500平方メートル以下のものになります。
第二種中高層住居専用地域では事務所ができる
第一種中高層住居専用地域では、大規模の事務所を開業することができませんが、第二種中高層住居専用地域では開業することができます。
ただし店舗と同様に2階以下の部分で1,500平方メートル以内という制限があります。この制限面積は、いくつかの店舗や事務所が混在している場合は、それぞれの床面積を合算した面積になります。
第一種・第二種中高層住居専用地域と他の用途地域を比較してみる
第一種・第二種中高層住居専用地域の特徴を知るために、他の用途地域と比較していくことにしましょう。
第一種・第二種中高層住居専用地域は建ぺい率が厳しい
第一種・第二種中高層住居専用地域で指定できる建ぺい率を他の用途地域と比較してみましょう。
- 第一種低層住居専用地域:30%~60%
- 第一種・第二種中高層住居専用地域:30%~60%
- 第一種住居地域:50%~80%
- 近隣商業地域:60%~80%
- 商業地域:80%
これにより、中高層の建築は許容されているものの、建ぺい率制限は第一種低層住居専用地域と同クラスの制限が掛けられることが分かります。このため空地が確保でき、それぞれの敷地に緑化できるスペースを確保することができます。
なお第一種・第二種中高層住居専用地域は、30%~60%の選択肢がありますが、全国的にみると多くは60%で指定されています。
第一種・第二種中高層住居専用地域の容積率は緩い
容積率制限も他の用途地域と比較してみましょう。
- 第一種低層住居専用地域 50%~200%
- 第一種・第二種中高層住居専用地域 100%~500%
- 第一種住居地域 100%~500%
- 近隣商業地域 100%~500%
- 商業地域 200%~1300%
第一種・第二種中高層住居専用地域は中高層建物を許容している用途地域なので、容積率に関しては、第一種低層住居専用地域とは大きく異なってきます。極端に高層建築物を許容している商業地域を除く他の用途地域と同レベルの容積率の指定が行えます。
第一種・第二種中高層住居専用地域には日影規制がある
日影規制は用途地域に加えて指定容積率によって制限が異なりますから、想定する容積率を記載します。建物から10メートルを超える範囲に何時間までの日影であれば許容されるのかをみていきましょう。
第一種・第二種中高層住居専用地域でどれくらいの日影時間であれば許容されるのか、他の用途地域と比較しながらみていきましょう。
- 第一種低層住居専用地域(80%) 2時間30分
- 第一種・第二種中高層住居専用地域(200%) 2時間30分
- 第一種住居地域(200%) 2時間30分
- 近隣商業地域(300%) 3時間
- 商業地域 制限なし
第一種・第二種中高層住居専用地域は、第一種低層住居専用地域と同じ2時間30分ですが、第一種低層住居専用地域の日影の測定点が地盤から1.5mの地点であるのに対して、他の用途地域は地盤から4mの地点を測定点としているので、やはり日影規制に関しては、第一種低層住居専用地域が最も厳しいことが分かります。
測定点が地上から4mということは、建物の2階に相当します。2時間30分までの日影を許容しているという事であれば、たとえばベランダに10時に日影が落ちれば、12時30分まで日影が落ちているということになります。
ただし、これは最も条件が不利な冬至の日の日影を想定していますから、実際には、それよりも条件の良い環境で暮らせる期間の方が長いことになります。第一種・第二種中高層住居専用地域では、高層建築物を一定許容していますが、住環境に配慮する観点から日影規制が設けられていることが分かります。
反対に商業地域や近隣商業地域では、利便性を優先しているため、日影規制は緩い制限になっています。
用途規制でどこまで住環境が守られるのか
第一種・第二種中高層住居専用地域は、用途規制でどのような住環境が保護されているのかをみていきましょう。次の表で、それぞれの用途地域で建築できるものと建築できないものを示しました。
- 建築できる……〇
- 建築できない……X
住宅 マンション | 銀行 | ホテル | カラオケ゚ ボックス | 自動車 修理工場 | ラブホテル 風俗店舗 | |
第一種低層住居専用地域 | 〇 | X | X | X | X | X |
第一種中高層住居専用地域 | 〇 | 〇 | X | X | X | X |
第二種中高層住居専用地域 | 〇 | 〇 | X | X | X | X |
第一種住居地域 | 〇 | 〇 | 〇 | X | X | X |
近隣商業地域 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | X |
商業地域 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
これにより、第一種・第二種中高層住居専用地域では、ホテルやカラオケボックスなどが建築できないので、学生や会社員・公務員以外に他のエリアから不特定多数の人が大量に出入りすることがほとんどないことが分かります。
第一種・第二種中高層住居専用地域では、このエリアで暮らす人々が日常生活に支障のない施設が整備される地域なのです。
まとめ
第一種・第二種中高層住居専用地域は、このエリア居住する人々が快適に過ごせる環境を保持することを目的としているので、高層マンションが建て並んでいるのにもかかわらず、賑わいに欠けるといった印象を受けることになります。
また銀行や公共施設以外に大きな会社ビルなどを誘導していないため、ほとんどの人が勤務先が遠方にあるという状態になります。
このため商業施設や勤務先へのアクセスも、住居を定める際の大きなポイントになります。